食品に関する諸制度について(栄養や保健機能に関する表示制度、食品用途発明)

先日、日本弁理士会およびJBA知的財産委員会共催で行われた食品用途発明に関するセミナーを聴講をし、日本における現状の食品用途発明について有益なお話を聞く機会があったことから、今回は食品に関する諸制度について、食品表示に関する制度、そして知財の観点からは、主に日本における食品用途発明の判断基準などについて、簡単に紹介したいと思います。

1. 食品表示に関する制度

– 特定保健用食品

特定保健用食品は、からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品となる。いわゆる「トクホ」と呼ばれる食品である。

特定保健用食品として販売するには、食品ごとに食品の有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得る必要がある。(健康増進法第43条第1項)
この許可を得るハードルが高く、後述する機能性表示食品制度ができるまで、この制度の利用率は高くなかった。

– 機能性表示食品

機能性表示食品制度とは、2015年に始まった制度で、国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度となる。
特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行わないため、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要がある。
「トクホ」と異なり、手続上のコスト・手間のハードルが下がったことから、食品関連企業を中心に本件制度の利用が進んでおり、各企業の販売数量や売上にも正の影響を与えている。
一方、食品表示法に基づく機能性表示食品制度全体に対する信頼が損なわれるような事例も散見されるようになっており、機能性表示食品については、消費者の側も、しっかりその商品のクオリティについて、確認をする必要性が生じている。

2. 日本における食品用途発明の判断基準について

– 日本における食品用途発明の判断基準について

日本では、改訂前の特許庁の審査基準では、「成分Aを添加した骨強化用ヨーグルト」という用途発明を例に挙げ、食品として利用されるものについては、公知の食品の新たな属性を発見したとしても、通常、公知の食品と区別できるような新たな用途を提供することはないとして、食品用途発明を否定していた。
それが上記2015年の機能性表示食品制度の導入に合わせて、特許庁の審査基準及び審査ハンドブックも2016年3月に改訂がされた。改定後の審査基準においては、下記請求項の事例において、

【請求項 1】成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物。
【請求項 2】前記食品組成物が発酵乳製品である,請求項 1 に記載の二日酔い防止用食品組成物。
【請求項 3】前記発酵乳製品がヨーグルトである,請求項 2 に記載の二日酔い防止用食品組成物。

(i) 「二日酔い防止用」という用途が、成分 A がアルコールの代謝を促進するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるとき。
(ii) その属性により見いだされた用途が、「成分 A を含有する食品組成物」について従来知られている用途とは異なる新たなものであるとき。


の上記(i)(ii)の要件を満たす場合には、「二日酔い防止用」という用途限定も含め、請求項に係る発明を認定するとしている(したがって、両者は異なる発明と認定される。)

-日本における現状の食品用途発明の審査について

今回聴講をした、日本弁理士会およびJBA知的財産委員会共催で行われた食品用途発明に関するセミナーでの説明では、現状の日本における食品用途発明の審査については、従来から用途発明が認められていた医薬品における用途発明と同様の審査基準で行われているとのことであった。医薬品における用途発明では、

ある物の未知の属性の発見に基づき、当該物の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」

であると認められるときに、用途発明が認められることとなっており、食品用途発明も上記と同様の判断基準にのっとっているとのことである。
しかしながら個人的には、個別具体的な事例にあたらなければ、上記「医薬品における用途発明と同様の審査基準」という特許庁の審査の匙加減が、肌感覚としてわからないという印象を受けた。
今後も、食品用途発明を検討する際には、最新の審査基準、審査ハンドブックや、関連判例等を参考に、クレーム等の検討をする必要があると考える。

参考資料: